目次
重要事項説明義務の基本
宅地建物取引業法 第35条(重要事項の説明等)
宅地建物取引業者は、宅地・建物の売買や貸借の相手方に対して、その者が取得し、又は借りようとしている宅地・建物に関し、その売買又は貸借の契約が成立するまでの間に、宅地建物取引士をして、少なくとも次に掲げる事項(=重要事項)について、これらの事項を記載した書面を交付して説明をさせなければならない。
▶ ①重要事項:買主にとって契約を締結するか否かの判断、または意思決定のために重大な影響を及ぼすもの
②説明の相手方:買主(売主・買主どちらに委託されても)但し、実務上は買主だけでなく売主に対しても重要事項説明書の交付・説明がなされている。
③説明の時期:契約締結前に行う(重説と37条書面を兼ねる違法な運用)
④説明の範囲:「少なくとも~」との文言及び規制の趣旨→限定列挙ではなく例示列挙
⑤説明の方法:「書面」を交付して説明が必要であり、郵便、電話、メールによる説明は不可。ただし、平成28年の宅建業法改正により、買主が宅建業者である場合は、書面交付は義務だが、説明は省略可能に。
重要事項説明義務とは
◆故意による重要な事実の不告知・不実告知の禁止(宅建業法47条1号)との違い
▶宅建業者が、業務に関し、故意に重要な事項を告げず、または不実の事項を告げたとき→業務停止処分の対象に止まらず、2年以下の懲役or300万円以下の罰金に処せられ、またはこれを併科される
①対象:「宅建業者の相手方等」であり、売主・賃貸人を含むので法35条の対象よりも広い。
②規制の時期:法35条のように売買等契約締結前に限らず、契約締結後に宅建業者が知った重要な事実の不告知・不実告知も禁止される
A (売買など)契約の締結について勧誘するに際して
B (売買などの)契約の申込の撤回もしくは解除を妨げるため
C 宅地建物取引業に関する取引により生じた債権の行使を妨げるため
③民事責任:損害賠償、解除、消費者契約法により契約取消
◆売主の告知義務(説明義務)との関係
ともに違反が認められた場合は、損害賠償責任(連帯責任)を負う
また、売主が委託した仲介業者の説明義務違反は、売主も共同責任を負いうる
◆宅建業者の秘密保持義務との関係(売主が内緒にしてほしいという瑕疵を黙っていてよいか)
▶買主への説明義務が優越する
▶委託者(売主)に対して、知っていた瑕疵は免責条項があっても免責されな
いことを説明し、開示するよう助言義務を負う
▶その上で売主が告げないことに固執する場合、辞任も検討する
買主への説明義務が優越する以上、「故意に告げず」(47条1項)に該当し、
買主に対する損害賠償責任(売主との連帯責任)だけでなく、刑事責任を負う可能性もある。
重要事項説明義務に違反した場合の責任
①民事責任
▶基本的には、損害賠償責任 (補修費用、下落した価値との差額など)
▶説明があれば買主が契約しなかったことが明らかで、違反による結果が重大な場合は、契約の無効・取消も(錯誤・詐欺)
②行政責任
▶指示処分、業務停止、免許取消
③刑事責任
▶故意による事実の不告知、不実告知 :懲役2年以下or罰金300万円以下
一般には民事責任のみの追及が多いが、実務的には駆け引き的に行政・刑事責任の追及を併せて行われることも
説明の際の留意点
①推測や見込で説明しない(特に現場案内の際のセールストークは注意)
▶重要事項説明は正確であったが、現場におけるセールストークが問題とされ、損害賠償や契約取消が認められた事例
▶裁判所は、説明を受けた者の認識内容をもとにどのような内容の説明がさ れたか判断する。口頭説明により誤った認識や情報不足が生じた場合は重要事項説明義務違反と評価される
②売主・貸主にも重要事項説明を確認してもらう
▶重要事項説明の誤りを防止
③告知すべきか迷った場合は告知すべき
▶ 重要事項の範囲が必ずしも明確でない以上、迷ったら告知するのが妥当
④説明する相手方に理解してもらう
▶相手方が一般個人の場合、記載に誤りがなくても説明不十分とされるおそれ
⑤資料を添付する場合は割印を忘れず
▶資料を添付する場合は綴じ目に割り印を押しておく(「もらってない」と否定され説明不足の責任を問われた事例)
調査・説明義務の範囲
裁判の基準は「総合考慮による事案判断」
▶仲介業者が説明すべき事項や説明の程度は、個々の取引において以下の各要素に照らして判断されるべき。
・契約目的(居住用・事業用建物に供するか、転売目的か)
・売買の目的物(居宅、事務所、商業施設、賃貸物件等)
・仲介委託の趣旨(売却仲介、買受仲介)
・当事者の属性(消費者・事業者・宅建業者か、取引経験の有無、取引の知識)
・契約締結や取引価格の決定に影響を与えたか
・現地案内、現地での説明内容、提供をした資料
・売買契約書における免責特約、現状引渡等特約の有無・趣旨
▶かみ砕くと
①重要な事実を認識していた場合:説明をしなかったことor不十分な説明であったことが説明義務違反だったといえるか否かが問われる
②重要な事実を認識してなかった場合:認識可能性があったか否かを前提に、調査して説明すべきだったか否かが問われる
以下、具体的に
①登記
▶契約締結日まで確認する義務
▶抵当権、差押え、仮処分
・代位弁済等で抵当権が移転している:債権が債権回収会社に移転 → 競売が近い
▶借家権や借地権など登記に現れない権利もある
②法令に基づく制限
▶建築基準法、都市計画法 他50種類を超える
▶「法の不知は許さず」:法令は知らなかったでは済まされない
▶法律だけでなく、政令(ex.建築基準法施行令)、行政指導(宅地開発行政の分野における開発指導要領)、地元の申合せによる制限も含む
▶関係法令に関する事務を所掌する市役所、都道府県庁、土木事務所等に出向いて問い合わせ、照会する
調査・説明義務の範囲 法令
見落とし、誤りがちな法令の調査・説明項目
市街化調整区域 | ①「原則、一般住宅など建物を建築できない、開発行為も許可されない」ことを具体的に説明する必要。買主が理解しておらずトラブルに
②ドライブインとして許可された建物を熱帯魚店舗として賃借したが用途変更が認められずに損害賠償責任を負った事例 |
既存不適格物件 | 過去の法令には適合していたが、現行の法令に適合しない物件は、建替えるときには建築基準法等の現行法令に適合させる必要がある |
傾斜地付近 | 住宅建設の目的で傾斜地を購入した買主が建築確認申請をしたところ、県の建築基準法施行条例(がけ条例)により、買主が予定した住宅を建築するには擁壁の措置が必要だったため損害賠償責任を負った事例 |
開発指導要領に基づく行政指導 | 共同住宅建設のため第1種住居専用地域内の分譲地を購入したが、市の開発指導要綱に基づき行政指導で共同住宅建設ができないことが判明し、仲介業者に損害賠償責任が生じた事例 |
地元の申合せ | 宅地を購入したところ、市街地開発事業の施行予定があり、近隣の宅地所有者の申合せにより、区域内に建築される建築物は道路から1.5m後退させる必要があることが判明し、報酬の一部を返還した事例 |
4 調査・説明義務の範囲 瑕疵
③瑕疵
▶仲介業者は建築士・不動産鑑定士と異なり、取引物件の物的状態の調査・検査能力や鑑定能力を備えている訳ではない
→現地見分するにあたり、通常の注意をもって現状を目視により観察し、その範囲で買主に説明すれば足り、これを超えて瑕疵の存否や内容についてまで調査・説明すべき義務を負わない
しかし、瑕疵の存在を認識したり、瑕疵の存在の可能性を推認できるような事実を認識していれば、瑕疵の存在またはその可能性について説明する義務を負う
▶ ポイントは「知り得た」かどうか
「知り得た」といえる場合は、調査をし、調査結果を説明する義 務があるとされる
瑕疵について調査・説明義務違反が問われた事例
雨漏り | ◆違反あり
売主から漏水や黒カビの発生の事実を聞いていた→雨漏りを疑わせる重要な事実でもあるので、事実を明らかにして、買主が雨漏りの有無を調査確認したり、売買価格の相当性を検討する機会を与えるため説明する義務があった ◇違反なし 雨漏りの跡に気付いて売主に問い合わせ、修繕済みとの回答を得たことや、大規模修繕の可能性があって建替えの可能性があることを告げたことをもって、調査・説明を果たした |
白アリ | ◆違反あり
白アリらしき虫の死骸を発見していたことから、その事実を買主に説明し、買主にさらなる調査を尽くすよう促す義務があったのに怠った ◇違反なし 白アリ被害について、被害を疑わせる事情がなかったから、瑕疵を知り得なかった |
地盤 | ◆違反あり
瑕疵の存在を認識していなくても、地盤沈下により傾斜やひび割れ等の不具合が生じていた建物の内部を確認することを怠っていたから、調査義務違反があった ◇違反なし 床面の傾斜が67分の1と認定した上で、建物内に立ち入った誰もが瑕疵(傾斜)に気付いていなかったことから、調査説明義務違反はない |
調査・説明義務の範囲 心理的瑕疵
◆心理的瑕疵:自殺・殺人等の事件・事故の現場となった履歴があること
▶一般に嫌悪すべき歴史的背景に起因する心理的瑕疵に当たるから、重要事 項に当たる →調査・説明義務がある
▶裁判例をみると、売買と賃貸では異なる
・1回賃貸借期間を経過すれば、説明義務はないとした裁判例
ただし、それを意図した短期間の賃貸借ではNG
・特に売買ではトラブル回避のため、10年は告知した方が無難
▶噂の存在は説明義務があるが、噂の真偽までは調査義務はない
重要事項説明のまとめ
▶買主の購入目的・借主の利用目的を聴取し、その目的が妨げられない事情(瑕疵、法令規制等)の有無を可能な限り調査・説明し、場合により、買主・借主にさらなる専門的調査を促す
▶オーバートークは禁物
▶知り得た重要事実(瑕疵など)は調査・説明義務の対象となる
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