売買契約書について弁護士が解説

売買契約書について

売買契約書の目的と効果

①契約内容の確認

②権利義務の明確化による取引の円滑化

③紛争の防止

★④紛争時における証拠としての機能(身を守るためのもの)

⑤宅建法37条書面であること

宅建業者は37条1項各号に掲げられた事項を記載した書面

交付義務がある

⇒違反すると、業務停止処分の対象

罰金50万円以下

売買契約書と他の書面との違い

▶  買付証明書・売渡承諾書との違い

買付証明書や売渡承諾書の交付をもって売買契約成立を認めた裁判例はない(∵確定的な意思表示の合致に至っていない)

▶  取纏め(とりまとめ)依頼書との違い

買受希望者(事業者)が仲介希望者に提出した不動産取纏め依頼書に「売主の承諾が得られ次第、売買契約を締結します」と契約予定日が記載されていた事案。「不動産購入希望の意向を示したものに過ぎない」として、契約成立が否定された

▶ 仮契約書との違い

売買の最終的かつ確定的な意思表示の合致に至っていないから契約成立とはいえない

▶  協定書との違い

事業用建物の用地の売買などでは、契約締結に至るまで交渉に相当期間を要し、多岐に渡る事項を協議する必要があるため、交渉途中に、所有者と買受希望者との間で協定書(基本協定書、基本合意書など)と題された書面が作成されることがある。

協定書は、最終的な意思表示の合致があるとはいえないので、売買契約が成立したとはいえない。

ただし、相当協議が煮詰まっていたことの証にはなり、一方当事者が正当な理由なく、交渉を打ち切って契約締結を拒否し、相手方が損害を被った場合は、損害賠償責任が生じうる。

▶  覚書との違い

記載内容に売買契約の要素(当事者、目的物の特定、所有権の移転、代金額の確定)が含まれていれば、違いはない

形式面の注意点

▶  本人以外の署名

本人(〇〇)に代わって代理人(◆◆)が署名する場合は「〇〇代理人◆◆ 印」として、

本人が自署し実印を押した委任状を添付する。

※売主が高齢者で認知症のため判断能力を欠く状況にある場合                ①本人が署名しても契約無効、②成年後見開始の審判を受けないで家族が本人名義で署名しても契約無効 ⇒成年後見人の署名押印が必要

▶  印鑑(実印の意味)

認印でも契約書の効力には変わりない。ただし、本人の印鑑が押されたか争われた場合、実印があれば印鑑証明書によって本人の印鑑であると証明することが容易になる。

▶  持ち回り契約

本当事者の一方が遠隔地にいるため、仲介業者が契約書を順次持ち回って署名を求めることが ある。この場合、契約当事者のうち、最後に署名した日が法的な契約締結日となる。

⇒ 契約締結日が起算点となって権利関係に影響が及ぶ場合に疑義がないようすべき

例 瑕疵担保責任の期間制限

▶  仲介業者の記名押印

認印でも契約書の効力には変わりない。ただし、本人の印鑑が押されたか争われた場合、実印があれば印鑑証明書によって本人の印鑑であると証明することが容易になる。

作成上の注意点

▶  売買契約書を作成・チェックする際のポイント

⇒ひな形の妥当性(取引実務で一般的かつ最新のものか)

法律違反はないか(宅建業法、消費者契約法、住宅品質確保法)

重要事項説明書と矛盾していないか

依頼者にとって不利な条項はないか(削除、修正)

曖昧・不明確な条項はないか(明確化できなけれ特記事項欄を活用)

不確定な事情があるか(特約条項・容認事項を活用)

最優先すべき取引条件は何か

特約条項・容認事項の活用

▶  民法改正(2020年4月1日から施行)

「瑕疵担保責任」は「契約不適合責任」へ変わる

【現行民法の条文】

売買の目的物に隠れた瑕疵があったときは・・・

【改正民法の条文】

引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に

適合しないものであるときは・・・

⇒ 当事者の具体的合意の内容を重視して契約内容を解釈しよう

契約の趣旨(目的)や、契約書の文言が重視される

⇒ 特約条項・容認事項に、契約の具体的経緯なども含めて記載する

特約条項の記載例

▶  確定測量図交付を合意する場合

〈特約条項〉

1.売主は、令和○年○月○日までに確定測量図を作成し、買主に交付するものとするが、隣地所    有者の協力が得られない等、売主の責めに帰さない事由により令和○年○月○日までに買主に交付できない場合には本契約は当然白紙になるものとし、その場合は、売主は直ちに手付金を無利息で返還し、買主は売主に対し、違約金等一切の金銭的請求、法的請求をなし得ないものとする。

▶  心理的瑕疵の場合

〈特約条項〉

2.物件敷地内において、平成20年頃、死亡事件(殺人)が発生したが、事件当時の建物は、「お祓い」をして取り壊しをしているとのことである。以上の点は「隠れたる瑕疵」に該当するものではなく、買主は売主に対し、損害賠償その他法的請求をなし得ないものとする。

▶  中古物件を売買する場合

〈特約条項〉

3.売主は第〇条のとおり、引渡から1年間、瑕疵担保責任(契約不適合責任)を負うが、本物件は築20年を経過しており、屋根等の躯体・基本的構造部分や水道管、下水道管、ガス管、ポンプ等の諸設備については相当の自然損耗・経年変化が認められるところであって、買主はそれを承認し、それを前提として本契約書所定の代金で本物件を購入するものである(それらの状況を種々考慮、協議して当初予定していた売買代金から金50万円を値引きしたものである)。          買主は、それぞれの設備等が引渡時に正常に稼働していることを現地で確認したが、引渡後に自然損耗、経年変化による劣化・腐蝕等を原因として仮に雨漏り、水漏れ、ポンプ等の設備の故障等があったとしても、それらは隠れた瑕疵に該当するものではなく買主の責任と費用で補修するものとし、売主に法的請求・費用負担等を求めないものとする。

▶  成年被後見人の居住用物件を売買する場合

〈特約条項〉

4.売主○○氏は成年被後見人であり、平成○年○月○日に□□氏が津家庭裁判所において成年後見人に選任されているが(別添「成年後見人選任決定書」写し参照)、本件売買物件は売主○○氏の居住のための物件であり、その売却には家庭裁判所の許可が必要であるところ、本売買契約は上記許可決定を停止条件として効力を生ずるものとする。

容認事項の記載例

▶  柱書き

買主は、下記の容認事項を確認・承諾の上、購入するものとし、下記事項について売主に対し、損害賠償等の一切の法的請求をなし得ないものとする。

①・・・

②・・・

▶  環境変化

① 本物件周辺は第三者所有地となっており、将来開発事業及び建物(中高層建築物等)の建築または再築がされる場合があります。その際、周辺環境・景観・眺望及び日照条件等が変化することがあります。

② 「法令に基づく制限」については、重要事項説明時点における内容であり、将来、法令の改正等により本物件の利用等に関する制限が附加、または緩和されることがあります。

▶  隣地との境界上に塀がある場合

③ ○番○号と○番○号の境界上の現況の塀は隣地との共有物であり、修繕・やり替え等を行う際、その所有者と協議及び承諾が必要となります。

本記事はセミナーでの講演内容を編集し作成したものです。内容の詳細につきましては、
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