パワハラについて四日市の弁護士が解説

1 パワハラとは

暴力や人格を否定する言動がパワーハラスメント(パワハラ)になることは、どなたでも理解できるでしょう。

では、パワハラになる注意・指導と、パワハラにならない注意・指導の違いはどこにあるのでしょうか。

これについて、「受け手がパワハラだと感じたらパワハラだ」という説明を聞くことがありますが、それは違います

 

「パワーハラスメント(パワハラ)」とは、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える、又は職場環境を悪化させる行為をいいます。

 

ポイントは、「業務の適正な範囲を超えて」いる場合に、パワハラになるということです。そして、業務の適正な範囲内かどうかは、客観的に判断されます。決して、主観的に判断される(受け手がパワハラと感じたらパワハラになる)訳ではありません。

部下がミスをした場合に、上司がミスを叱責したり、改善のため注意・指導を行うこと自体は、当然、許されることです。上司が部下に同じミスを繰り返さないよう求めることは、業務上必要なことだからです。

叱責したり、注意・指導をする際に、「アホ」、「ボケ」、「死ね」、「お前は病気か」、「だからお前はダメなんだ」などと人格を否定したり、傷付けるような言動をしなければ、パワハラにはなりません。

むしろ、部下から「パワハラだ」と責められることを恐れて、必要な注意・指導をしないことは、上司の責任を放棄するものだといえます。パワハラの指摘を恐れて、上司が過剰に委縮することはあってはなりません。

2 パワハラのリスク

しかし、実際には、業務の適正な範囲を超えた叱責や注意・指導によるパワハラは尽きません。

原因は、上司にパワハラについての知識や理解が欠けていたり、知識はあってもその場の勢いで限度を超えた言動をしてしまったり、色々あるでしょう。

 

いずれにしても、経営者の立場からすれば、パワハラ問題を放置することは絶対に避けるべきです。仮にパワハラを行った上司の気持ちが理解できるものだったとしても、パワハラはパワハラとして毅然と対処すべきです。

 

なぜなら、①パワハラについては、パワハラを行った上司本人だけではなく、使用者である会社も損害賠償責任を負うから(民法415条ないし715条)、 また、②パワハラによって職場環境(職場の空気)が悪化し、パワハラを受けていない他の従業員も会社から離れていくとともに、新しい従業員も来なくなってしまうからです。

 

現在は、会社の内情も、SNSなどを通じてすぐに外部に知られてしまう時代です。年々労働人口が減少していく中、従業員が定着しない会社が安定した成長を続けることができるでしょうか。

経営者としては、パワハラは会社の存立に関わる重大な問題であると認識し、見過ごすことがないようにしなければならないと思います。

3 パワハラの防止

まずは、パワハラが起きないよう予防対策を講じることが重要です。

具体的には、次のようなことです。

 

①パワハラに関する使用者の方針の明確化

まず、就業規則や書面によって明確にパワハラの定義をし、パワハラに対して、会社としてどういう対応をするのかを従業員に周知すべきです。

管理職に対しては適正な範囲内の注意、指導はパワハラでないことを示し、過度に委縮しないよう配慮はしつつも、パワハラは許さないという姿勢を全従業員に示し、会社に対する信頼を確保することが重要です。

これは会社の姿勢を示すことですから、経営者自身が従業員に向けて説明を行うなど、先頭に立って行うことが望ましいと思います。

 

②相談窓口の設置と適切な対応

パワハラの被害に遭った従業員が気軽に相談することができる体制を作ることが重要です。

相談窓口を社内に設ける場合は、窓口を担当する部署や従業員に対しても情報の取扱い等について十分な教育をしておく必要があります。

人員数の関係等から社内窓口を設けることができない場合は、法律事務所など外部の専門家に依頼することも考えられます。

 

③定期的な研修の実施

従業員にパワハラの知識と理解を深めてもらうとともに、会社が講じている制度を知ってもらうため、教育・研修を行うことです。

1度きりの研修ではあまり意味はありません。パワハラについての理解を浸透させ、パワハラが起きにくい社風に変えるためには、定期的に研修を繰り返すことが必要です。

 

 

4 パワハラが発覚した場合の対応

パワハラの申告があり、問題が発覚した場合、まず適切な事実調査を行う必要があります。

被害者と、加害者とされる人物、さらにその場に居合わせた従業員などから、個別に、十分聞き取りをすることです。

先に述べたとおり、適正な範囲内の叱責や注意・指導はパワハラではありません。被害者の言い分を鵜呑みにせず、客観的にどのような言動がなされたのかを確認することが必要です。

 

そして、事実調査の結果、パワハラがあった可能性が高いと判断した場合は、パワハラを行った上司に対する処分(異動や懲戒処分など)を検討することになります。

また、被害者に対するケアを行い、被害者が望むなら部署異動も必要でしょう。

 

ここで、パワハラを行った上司に対する処分や被害者に対する対応を誤ると、問題が収まるどころか、拡大するおそれもあります。

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